一仕事終えて

 

「せんせ、おやすみなさい」
「はい、お休みなさい」
「あしたのあさごはん、なにかなー?」
「ふふ。それはお楽しみ。明日の朝になったらね」

 ――魔女幼稚園では、園児たちをやっと寝かしつけ、幼稚園教諭のマジョポンとマジョピーは、くたくたになって職員休憩室へ戻った。
「はー、今日もしんどかった」
「テキパキちゃん、いたずらざかりだもんね」
「今、コーヒー淹れるわ」
「お願い、マジョポン」
 そう言うと、マジョピーはう〜んと伸びをする。まだまだ仕事は終わらない。保護者への連絡帳と、日誌をかかなければならないのだ。園児たちの、月に一度の処遇計画もそろそろ作って、園長であるマジョミラーに見てもらわねばならない。
「玄関の掃除、終わりましたよー」
 アルバイトの立場であるオヤジーデが、自分で肩をたたきながら戻って来た。辛い仕事は何でもこなさなければならない。そうでもしないと生活が成り立たないのだ。
「お疲れさま」
 伸びから、は〜、と力を抜いたマジョピーが、ねぎらいのことばをかける。
「今、マジョポンがコーヒー淹れてくれてるから」
「あ、それならワタクシが」
「いーのいーの。マジョポンったら、最近すっかりコーヒーに凝っちゃって、自分でやらないと納得がいかないんだって」
「はー」
「魔法で出すコーヒーは、美味しくないそうよ」
「そんなものなんですかねー」
 マジョピーは今日の日誌を開き、オヤジーデもアルバイトのチェック用紙にある『玄関清掃』の欄にチェックを入れる。
 カリカリと日誌を書いている音がしばらく続き、やがてコーヒーの良い匂いが漂って来た。
「はい、お待たせー」
 マジョポンがトレイに3つカップを乗せて、戻って来た。
「今日は自信作よ。自分で言うのも何だけど」
「ありがと」
「ありがとうございます」
 二人はカップに手を伸ばす。
「――うん! 美味しいわ」
「――生き返りますね」
 その返事に、マジョポンは嬉しそうに笑った。そしてふっと思い出したのか、
「そうそう。オヤジーデさん宛てに、人間界から荷物が届いてたわよ」
 小包を手渡す。
「Oh! ○mazonで買った、おんぷちゃんの一番新しい写真集ですー!」
「また?」
「やれやれ」
 マジョピーとマジョポンは呆れたようにつぶやいたが、オヤジーデの耳には届かなかったようだ。
「ラブリー! おんぷちゃ〜ん!」
 すっかり自分の世界に入ってしまったオヤジーデを置いて、マジョピーとマジョポンは少しずつコーヒーを飲みながら、
「でも、人間界っていいわよね。幼稚園って公立だけじゃなくって、私立のもいっぱいあるんだって」
「公務員って薄給だもんね。アタシも、もうちょっと給料のいい、私立に転職したいわ」
「ムリよ。魔女界には、ここしか幼稚園が無いんだから」
「あ〜あ。園長、もうちょっと上げてくれないかなー」
「仕事にも私生活にも厳しいもんね」
「マジョハート先生も厳しかったよねー」
「そうそう、言えてる」
「おんぷちゅわ〜ん!」
『うるさーい!』

 ――夜の、魔女幼稚園は、まだまだ眠れそうにない。


 

MAR.14,2006