ありがとう


(もうじき順番が回って来る――)
 長門かよこはうつむいて、真新しい机をじっと見ていた。
(次だ――)
 緊張して、手が汗ばんでくる。
「長門かよこ」
 はっとして、かよこは教壇の関先生を見た。関先生は安心させるかのように、にっこりと笑っている。
 一呼吸置いて、かよこは思い切って出欠の返答をした。
「はい!」
 次の瞬間、どこからともなく拍手が湧き起こり、5年1組はかよこへの祝福の空気に満たされた。かよこの頬が紅くなっていく。関先生はやさしく微笑むと、
「いい返事だね。じゃあ次――」
 再び出欠に戻っていった。
(答えられた――!)
 耳まで紅潮して、かよこはほっと息をつく。すると席の左の方から、かよこを呼ぶ声が小さく聞こえてきた。
(かよこちゃん。かよこちゃん)
 見ると、春風どれみと飛鳥ももこが微笑みを浮かべながら、揃ってOKサインを出している。かよこも照れ笑いをしながら、OKを指で作った。
(――嬉しい)

「かよこちゃん、一緒に帰ろ」
 放課後、机の中の教科書をランドセルにしまっていると、どれみが声をかけてきた。
「え? でも――」
 その誘いはとても嬉しいのだが、かよこはまだ緊張したままで、答えあぐねた。
「いーからいーから」
「どれみちゃん、ももちゃん。あ、かよこちゃんも。一緒にMAHO堂に行きましょ」
 5年2組の藤原はづきが顔を出し、妹尾あいこ、瀬川おんぷもかよこの周りに集まって来た。
「朝のHRの拍手、2組まで聞こえて来たで」
「私も。かよこちゃんのことだって、すぐに分かったわ」
 あいこ、おんぷも、にこやかにかよこに話しかける。
「何か――、恥ずかしいな」
「何言うてんねん。ウチらみんな――」
 あいこの後をおんぷが続ける。
「大親友、だもんね」
「私も1組に行って、一緒に拍手したかったわ」
 にっこりとはづきが言う。
「だからさ。この前みたいに、かよこちゃんも一緒にMAHO堂でお菓子を作ろうよ」
「That sounds nice!」
 どれみとももこが、かよこの両手を握った。
「でも――。迷惑になるんじゃ――」
「いいって! 全然迷惑になんてならないよ!」
 どれみがどん! と自分の胸をたたく。
「だけど、オーナーが嫌がったり――」
「心配あれへん。『今日は大親友が来るさかい、店、閉めとくでー!』って、根回しは万全や」
 あいこもどん! と自分の胸をたたく。
(そんな脅迫してたのね)
(さすがあいちゃん)
 あいこの耳に入らぬよう、はづきとおんぷはささやいた。
「本当に、いいの――?」
「もちろん!」
 5人が揃って答える。
「じ、じゃあ、ちょっとだけ――」
「ちょっと、なんてケチくさいこと言わないでさ! たっぷりお菓子作って、みんなでお茶しようよ! それとステーキも!」
「ステーキはお菓子ちゃうやろー? あかん!」
 聞いていたかよこは、くすっと笑った。
「それなら――。よろしくお願いします」
「やったー!」
 再び響く歓声。
「そうと決まれば行こう行こう!」
 どれみがかよこの手を取り、ぐんぐん引っ張って行く。
「ちょ、ちょ、どれみちゃん」
 少しうろたえながらも、かよこは満面に無垢な笑顔を浮かべた。

「――ありがとう、みんな!」


MAR.7,2006