― 初 詣 ―




 北風に煽られて、どれみはコートの襟をきつく立てた。

 寒いね―――

 と呟くと、

 そうね――― と、はづきは返してくれた。

 前を行く妹は、冬だもん、寒くて当たり前だよ。と、生意気。

 でも、ぽっぷだってマフラーを口元まで引き上げた事を、どれみは見逃さなかった。


 今年のおみくじは、吉だった。

 うん。着実に進歩してる。おみくじだけは、年を追う毎に良いのを引けている様子だ。だが、実際の運気がどうであるかは、神のみぞ知るのであろう。


 せっかく少し上がったと思いたい運気だが、おみくじはやっぱり、例年通りあの松の枝に結び付けてきた。ぽっぷの大吉のおみくじと一緒に。


 結び目が少し乱暴になってしまったのだが、これだけ一杯おみくじの生っている枝のわずかな隙間に、無理やり結び付けたんだから仕方が無い。と、自分で勝手に納得する。


 ぽっぷに、こんな調子じゃ今年も彼氏なんて出来ないね。と言われて腹が立ったが、そこは中学生になった大人らしさを以ってして、今度デートの時に貸して欲しいと言っていた例のジャケットを貸してやらない事で許してやろう。


 石段は人で溢れている。

 人の流れと一緒に降りていく自分たち。そして、今から御参りに行くであろう、白い息を少し荒くしながら上り往く人達。

 だけど、流れる人達の中に、知った顔は見当たらない。


 三人だけの初詣なんて、二年生の時以来だね―――

 わずか靄に覆われた、眼下に拡がる美空町を眺めながら語りかける。

 そうね―――

 はづきは少し寂しそうな笑顔を見せた。


 ねえ、はづきちゃんは何をお祈りしたの?悟っての事でだろうか、ぽっぷが問う。

 はづきは、一瞬戸惑った素振りを見せたが、ヴァイオリンを上手に弾けるようになりますように。だと、はにかみ、答えた。

 じゃあ、ぽっぷちゃんのお願いって、何なのかしら?笑顔で問い返されたぽっぷは、ポン。と小さな胸を叩く。
 もちろん、玉の輿に乗れますように、だよ。澄ました顔で答えた。


 ちょっと、十円ぽっちで贅沢なお願いじゃない?そう言い捨てるどれみの台詞を横で聞きながら、突っ込むところはそこじゃない。と、はづきが心の中で思った事は、誰も知らない。


 わたしなんか、百円もお賽銭あげたんだから―――

 赤いお団子を後ろに反らして胸を張る。

 百円程度じゃムリムリ―――

 ジト目でぽっぷは言い返す。

 どうして?はづきが問うと、どうせカッコ良い彼氏ができますようにって、お願いしたに決まってる。百円で足りるはず無い。と、答えた。


 あーっ!急に大声で叫んだどれみ。ごめん、ちょっと待ってて。そう言い残すと、石段を二段飛ばしで駆け上がって行く。

 きょとんとした顔のぽっぷ。はづきは苦笑しながら言った。

 どれみちゃんの事だから、みんなの分のお願いだけして、自分のお願いを忘れてたのよ―――


 赤いお団子が、人垣の中で揺れている。

 どうやら、人の流れに邪魔されて上手く前へ進めないらしい。


 ところで、彼女の財布の残高だが、お年玉をあてにして年末使い過ぎたために、もう殆ど残ってはいない。

 この分だと、どれみ自身の願い事は例年通り、五円玉で安く済ませる事になりそうだ。


 赤いお団子が、まだ揺れている。



 どれみに彼氏ができるかどうかは分からないが、今年も変わらない年になりそうだ。と、はづきは思った。



 ― 終 ―





 平成16年 元旦      ムラオカ